2003.8.5 「谷に残る野性」
 
釣行データ
日時 2003年8月5日(火) 10:30〜14:50 18:00〜19:10
釣り場 天竜川水系
天候・気温 曇り/雨、気温未計測
水温・水質 未計測
タックル Rod    EUFLEX INFANTE 7'6" #4(6PC)
Real   HARDY MARQUIS #4
Line   VARIVAS Precentation DT4F
Reader  AKRON BUSH MASTER 5X-8ft
Tippet  AKRON 5X-3ftくらい
釣果 イワナ 13尾(28.5〜21cm)※Y型、YN型
フライ アント#16

山岳地図を眺める度に想いをめぐらす沢があった。きっとここはヤマトイワナのパラダイスに違いない。そんな妄想ばかりが頭を駆け巡る。水量の多い時期は遡行が困難であろうから梅雨明けから数日経ち水も引き始めているこの日に絞り込み、先輩Hさんと日程を調整した。

待ち合わせ場所である山道の出会いでHさんと合流。食料と水をザックに詰め込んで、いざ目的の沢へ。これから山登りの開始だ。木々の隙間から日が射し込み始める。気温は既に高い。急な山道に歩を進める度に汗が落ちる感じがする。次第に日差しが上から射し、その日差しは真夏の太陽そのものだった。もう少し涼しい時間帯に登りを設定すれば良かった。少し後悔する。途中までの山道は何度も釣りに通った道なので、休むことなく一気に登り詰めた。しかし、目指す沢はまだこの先にある。急な斜面を1歩1歩登っていった。どのくらい歩いただろうか、私もHさんも息が切れていた。やっと目的の沢の下流付近に到達。ここから沢筋に降りなくてはならない。地図を出し自分達の位置を確認し林を抜け、沢へと降り立った。想像した以上に狭く暗い谷をガンガン水が流れていた。釣りになるだろうか、初めての渓で期待もあるが不安は隠せない。

私達はここからすぐには竿を出さず、暫く川通しや林の中の藪漕ぎなどをして、さらに標高を稼いだ。元山屋のHさんが遡行途中に転倒するなどアクシデントもあった。険しい渓はまだまだ続く。小休止を何度も取り、枝沢を横に見てさらに先を詰めた。ゴルジュ帯の先まで歩こうという予定であったが、ずっと歩き続けているので、ちょっと様子見の竿出し。Hさんがまず試し釣り。いかにもという大場所。木がかぶり投げ難そうだ。流したフライに何度かアタックはあった。フッキングこそしなかったが魚影を確認し少し安心した。更に先を目指す為、我慢して遡行を続ける。どのくらい歩いただろうか、あまりにも良いポイントが連続するので、もう辛抱できず私もパックロッドを継いでいた。

午前10時半、当初の予定より早めに実釣開始。この辺りから渓の険しさもだいぶ無くなり、遡行はだいぶ楽になっていた。水温は11度。勢いよく落ちる水は白泡が立ち流速も早かった。木が被っているのでブッシュマスターリーダーの先に5Xティペットを3ftほど足した。本当はもう少し詰めたかったのだが、ドラックがかかってしまうのでこれが限界だった。イワナの反応は何度かあるが少し食いが渋い。ヒラキの下には着いていない事がわかった。白泡の切れ目の下に揺らめく魚影を発見。白泡の上に落とし流すとフライと一緒にしばらく下ってヒラキの下でパクっとフライに出る。このタイミングがなかなかつかめず、ついつい早アワセをしてしまい失敗してしまう。しかし、さすがに山奥の秘境に棲むイワナは実に寛大なのだ。3度目のトライを受け入れてくれて、今度はしっかりフックセット。白っぽい魚体が見えたので、まさか混じりでは無いだろうな?と不安が過ぎる。以外に引きが強くティップがギュンと曲がる。キャッチしたイワナは7寸ほどで小ぶりだが間違いなくヤマトイワナ。このサイズでこの引き。やはりワイルドなイワナって凄いんだと実感させられた。とにかく1尾ヤマトが出たので気分的には楽になった。2尾目を求めHさん先行で釣り上がる。

私達はゴルジュ帯にさしかかっていた。見上げると絶壁の岩肌がそそり立っている。両側がゴルジュだと逃げ道はないが、幸いなことにゴルジュ帯は左右でずれているので、川を巻いたりも出来た。良いポイントが連続する割りに反応はそれほど良くはない。水がクリアで川底の色とイワナの色のコントラストが案外はっきりしているので、釣る前にイワナを発見できた。さすがサイトマスター(セレン)だ。イワナさえ発見できれば、釣りは容易だった。何回かフライを流すとその存在に気づきフライをゆっくり追う。オレンジ色の魚体が水面でうねる。ヤマトイワナが出た決定的な瞬間だ。うっ強い!。型は悪くない。型がいいとはいっても経験からいってそんなに労せずに取れそうなのに、バットに手を寄せないと寄ってこない。昔釣ったヤマトイワナは皆こうだった。それがYN型が増え始めると型はいいが意外と引かないイワナが多くなっている。野生の血を引くイワナのパワーってこうなんだ。忘れかけていた記憶が蘇った気がした。ネットはザックにしまったままだったので、Hさんのネットを借りてキャッチ。体高あるナイスサイズで25cm。それほど魚影は濃くは感じられないが釣れるヤマトイワナは皆ワイルドだ。口笛の音に振り返るとネットにイワナを入れたHさんがいた。待望の1尾が出たようだ。

先を詰めたいので端から丹念に釣る訳にはゆかず、遡行しながら良さそうなポイントを見つけ竿を出す。そして、イワナの魚影を確認し釣った。まさにサイトフィッシング。山岳渓流でこんな事をするとは思いもよらなかったが、接近戦でもイワナはあまりナーバスな反応はしないが、フライの存在になかなか気がついてくれないのだ。すごくノンビリしている感じ。3尾目は8寸ちょっとくらいだろう。これも良く引いた。ヤマトイワナはやはり素晴らしい。

その後も何尾かイワナを発見し釣るがバラシもありなかなか釣果は伸びない。昼前になんとか4尾目の8寸が釣れて午前中は終了。H先輩は2尾。昼飯を取り暫し休憩。日差しは強いのに気温は22度。沢筋は下界とは別世界だ。ひんやりと冷たい沢水にペットボトルを浸し暫く置くと、かなり冷え冷えになっていた。Hさんは数的に不満があるらしいが、私はナイスサイズも釣っているので悪い気はしなかった。なにより、私は思いを馳せた渓に立っているこの現実がなにより嬉しかった。この渓の規模からすればさほど個体数も多くは無いのだろう。かなり抜かれている可能性もある。冷静に考えればヤマトしか居ない渓である。
ここは本当に貴重な渓なのだ。地図を見るとまだまだ先はある。午後は更にハイペースで遡行し上流を詰めなければならない。

午後1時を回り上流を目指すべく遡行を再開した。入渓した頃にくらべると水量もだいぶ少なくはなっている。私達はどうやらゴルジュ地帯は抜けたらしい。少し谷が開けて空が大きく見えていた。遡行もだいぶ楽にはなった。午前中ほどは流れの魚影を発見できなくなっていた。叩きながら登るHさんも反応が乏しいらしい。

木の陰で薄暗く感じる小さな淵。ヒラキでは全く反応がなく、大石脇の反転流にポイントを絞り込んだ。フライを反転流に乗せて流し込む。何度か流すが反応がない。落ち込みの脇にポンポイントで打ち込んだ。着水して直後、下から黒い塊が飛び出す。食ったか?半信半疑でアワセを入れるとズシんと重みを感じた。良型は間違いない。小さな淵の底に向かってイワナが潜るのがわかった。強い。竿が伸され気味。ティペットは5Xなので強度は余裕。潜ったまま動かないイワナをなだめるようにロッドのバットに手を添えてぐっと水面に引き上げてくる。黒く朱点をまとった魚体がうねる。ヤマトの良型。尺いったか?緊張感が高まる。有利な様に岸際に寄せていく。最後まで抵抗を諦めない。ネットに収まる直前まで水面で激しく暴れた。ネットに収まってからもこぼれてしまうのではと思うほど激しく身をくねらせる。心臓がバクバクしていた。ネットに入った良型をHさんに見せる。ネットに横たえるとこのイワナの凄さがジワジワと実感してくる。凄い体高。この体型はイワナではなくアマゴに近いものがある。このイワナの素晴らしさ、そしてこの渓の懐の深さを思い知らされた。メジャーを充てる手が震えていた。尺にはちょっと足りず28.5cm。尺イワナではなかったがこの魚体はそれに匹敵する迫力があった。このイワナの風貌を見ていると古くから脈々と受け継ぐヤマトイワナの血を感じずにはいられなかった。この1尾に出会えただけでもこの沢に苦労して入ってきた価値があるというものだ。この渓、そしてイワナに感謝し流れに戻るヤマトイワナを見送った。

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先程まで青かった空がにわかに暗くなっていた。そして、大きな雨粒が乾いた石を濡らし始める。天気予報では午後には雨が降るという事だったが、今朝の天気からはそれが全く信用できないものであった。しかし、天気予報は時として当たるもので、これから更に奥へと探索を進めようという私達に容赦はなかった。レインウェアを羽織るまでもなく雨は止んでいた。このまま一気に上を目指すべくポイントの拾い釣りになった。

イワナの魚影を探し遡行する。通過しようとしたその流れに動くものを発見し足を止めた。たぶんイワナだ。数歩戻り間を調整。軽くフォルスキャストし流れの脇のヨレにフライを置く。その直後、魚体の半分を飛び出しイワナがフライを襲う。勢い良く飛び出したので乗らないかと思ったが、しっかりフックセット。またしても竿がのされ気味。なんて強いんだ。先程のイワナほどのタフさはないが、バットに手を添えないと寄せられない。最後は岸に寄せてキャッチ。26cmのヤマトイワナだった。少しスマートに感じたが、先程のイワナの体型がワイルド過ぎたのだ。これでも十分大きさを感じる。なによりこのイワナは体色も薄めで美しい。いつまでも眺めていたかった。Hさんに写真を撮ってもらいリリース。

私達は更に上を目指した。川の規模は小さくなってきていた。水量も少なくなり、少しずつではあるが源流部に迫ってきている事を感じていた。標高は1500mくらいだろうか。地図を開きながら眺めるとかなり登ってきたことわかった。しかし、上流に行くほどにイワナの魚影はなく、ただの沢登状態になっていた。一時止んでいた雨がまたしても降り始め大粒の雨が水面を叩いた。私のヤマトイワナ探釣に雨はつきもの。また来たか…。山が私達を拒んでいる感じがする。この辺が潮時だろう。Hさんも下山OKだそうだ。午後3時私達は下山を決めた。

レインウェアを羽織り登ってきた沢筋を下る。雨は次第に強まり土砂降りになった。ほんのわずかな時間に水量は増え始めていた。V字の谷に降った雨が一気に流れ込んでいる。危険すら感じた。エスケープできそうな廃道を発見した。一時でも早くこの地から逃れたい一心で歩は早まった。沢筋はだいぶ下を流れているので万が一の鉄砲水に巻き込まれる心配はない。一時の土砂降りも少し落ち着いていた。この廃道は進むにつれあまりに沢筋から離れていくので不安を感じた。何処かで間違ったか。ルートを修正しなければならない。間違えたと思しき箇所まで戻り、それらしいルートを見つけ下った。沢音が少しずつ大きくなり始めた。私達は本来の廃道ルートに戻ったようだった。林の中を歩き続け1時間以上経った。そして沢筋に出たところがなんと入渓点。幸運だった。水量は既に10cm以上増水していた。撤退タイミングを間違ったらどうなったか。背筋が寒くなった。

山道に戻った。この時既に雨は止んでいた。Hさんは下流に戻って下を釣りたいという。私も気になる沢があったので、分かれて後に合流する事にした。この沢も先程の雨で増水はしていたが濁りはなかった。竿を継ぎラインを通し始めると、またしてもポツポツと大粒の雨が降り始めた。暗い空に一瞬の閃光が走る。10秒程のタイムラグの後、地響きなようなズドドドド!と雷鳴。何度も閃光が光り雷鳴が響く。そのタイムラグが少しづつ短くなっていた。ヤバイ。竿をたたみ沢から非難した。レインウェアの中もかなり濡れていた。体から熱が奪われて行くとやる気もうせていく。まだ早いが今日は終わりにしようと山道を下った。

途中で釣りをしているHさんと合流。只者じゃないなこの人。上より釣れると言う。この辺りは水量も安定していた。土砂降りも止み雷もおさまったようだ。天気は小康状態。私も下山しながら目ぼしい箇所で竿を出してみることにした。時間は午後6時を回っていた。

良さそうな流れがあったので入渓することに。少し濁りがあったが十分ドライの釣りは出来る。イワナの活性が上がっているかも知れないと期待してフライを流れに置く。数投目にバシャっと水面が割れた。やはり狙い通りか。22cmくらいのYN型だった。この辺は魚影が濃かった。ほんの少し釣り登っただけで3尾のイワナをキャッチ。上の沢で釣った7寸はもっと引いたなと思いながらもイージーに釣れてしまうこの状況に気分を良くする。雨の後はアントパターンがいいというが正にその通りで、その後も8寸サイズの少し混じったYN型とヤマトイワナが連続ヒット。そういえば今日釣ったイワナは全部アントパターンだった。やはり夏の釣りにアントパターンは外せない。


小さな淵に遭遇。小さいとはいえ水深はある。沈み石の具合も悪くない。ここは1発が期待できる。遠目からアプローチかストーキングで接近戦か、私は接近し正確にポイントをトレースすることに賭けてみた。狙った筋にフライを置く。ロッドを使いできるだけナチュラルに流すことを心がけた。ここで出る!と思った場所でイワナが飛び出す。狙い通りだ。フライを咥えたのを確認しアワセを入れた。グググっ!出た瞬間はさほど大きいと感じなかったが引きが強い。良型のイワナに間違いない。ティペットの強度があるのでグイグイと寄せてくる。ファインティペットだとこうはいかない。そしてショートレンジで釣っていたので寄せるまでは早かった。ネットを出すと最後の抵抗で走るがもう完全に岸に寄せていたので難なくキャッチ。ナイスサイズのイワナがネットで踊る。サイズは27cm。ほぼヤマトイワナと呼んでも良いが少し混じりがあるかな。だか十分ワイルドな1尾で私は気分も上々。静かに水戻し見送る。

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この区間は短くすぐに堰堤に着く。堰堤に着く前に1尾追加し堰堤下へ。期待して釣ってみるが何回かアタックはあったがフッキングまで行かず期待はずれの結果に終わった。堰堤横の急斜面を登りHさんの待つ場所へ下る。時間は午後7時近かった。Hさんは下のプールで既にファイト中。7〜8寸イワナ数尾と遊んでいた。私もその横に入れてもらいプールを釣る。暗くなるまで待つとライズがあるのだが、既に叩いているので散発的にしかライズはない。小さめのフライでポイントにしばらくステイすると忘れた頃にバシャっと来た。しかし、私は2度のバラシで結局キャッチできず。午後7時を回ると一気に暗くなっていた。6月頃のイブニングではこれからが本番だったというのに季節は刻々と移り変わっているのだ。そして、今シーズンの渓流も残り2ヶ月を切った事をこの時痛切に感じていた。

今日は以前から訪れてみたいと思っていた沢を詰めることが出来た。途中で雨に見舞われたがほぼ予定した標高まで到達でき、この沢のアウトラインはおぼろげながらつかむ事が出来た。ヤマトイワナのパラダイスというほどの魚影を感じることは出来なかったが、ヤマトイワナの固体がどれも逞しく野性的な本来のイワナの姿、力強さを持っていた。数こそ釣れなかったが素晴らしい1尾に出会うことが出来、私はこの探釣の目的はほぼ達成できたと思っている。知り合いの方の言葉を借りれば「実績のある場所で数を釣る釣りも楽しいが、たいした情報もない場所を探索し釣る釣りと言うのも男の本能(好奇心)を十分に満足させるものだ。」この言葉が凄く実感として感じられた。自分の中の渓流マップが少し充実したそんな気持ちで山を下った。

 

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