2002.6.22「封印の滝 再び」


南アルプス ヤマトイワナの渓

釣行データ
日時 2002年6月22日(土) 8:00〜19:00
釣り場 南アルプスの沢
天候 晴れ/曇り
気温 未計測
水温 未計測
タックル Rod    WADA BAMBOO 7'0"#3
Real   INAGAKI Tueffone
Line   3M Ultra3 Bamboo Line DT3F
Reader  AKRON 5X-10ft
Tippet  AKRON 5X-4ft
釣果 イワナ 14尾(27cm〜20cm)
フライ #16アント、#13エルクカディス、#13パラシュート、#16CDCダン


久しぶりに南アルプスの沢に入った。梅雨の合間で雨の心配はなさそう。もう日差しは真上から差し込んできていた。既に3時間近くも沢を歩き釣り登ってきているが、まったく魚影のない状況であった。この沢に入る前の本流筋で、肩慣らしのつもりで3尾のイワナを釣ってはいるが、そんな記憶はだいぶ昔の事の様に思えてしまう。

昨年までの実績では、この付近、A沢とB沢の出会いでは良型のヤマトイワナが釣れていた。しかし、今日に限ってはまったく反応がない。意識的に川に入るが走る魚影すらない。何かがおかしい…。
渓相は大きく変わっていた。特に合流付近の流れは大きく変わり、川沿いの木々が根元をえぐられるように横たわっている。おそらく昨年秋の大雨の影響であろう。この沢以外にも南アルプスのお気に入りの川はかなりの被害があり、思い出のポイントはことごとく砂に埋まってしまっていた。

昼には少し早いが11時半頃、沢の合流で昼食を取る。ザックを降ろし渇いた喉を水で潤す。今までの疲れがどっと押し寄せて軽い睡魔に襲われた。たぶん、10分くらい寝ていたかもしれない。空を見ると南アルプスの山頂付近を雲が覆い始める。先程まで夏を感じさせる日差しだったのが急に薄暗くなり、谷を抜ける風も心地よさを通り越し少し寒気を感じてしまう。ザックにしまったシャツを出した。

今日は2年前に訪れた自称「封印の滝」のその先を詰める事が目的。何処まで詰める事が出来るかを確認するためにザックにはハイテク装備が入っていた。ポータブルのカーナビである。パナの「でるナビ」だったか実家で買ったものの使われずに埃をかぶっていたのをちょっと拝借し持ってきていた。
ザックから取り出し、GPSアンテナを取り付け電源を入れた。画面上には水色の線しか表示されていないが、それは2本の沢が合流している現在点をしっかりと表示していた。当たり前の事だが何か凄く感動する。バッテリー装備なのでちょっと重かったが、こうしてみると大変心強い見方に感じてしまう。無機質なナビの音声案内も不思議と嫌な感じはしなかった。

A沢に入って行く。この沢もだいぶ渓相が変わり、小場所がなくなり所々に淵が形成されていた。この沢に入るとイワナが優雅に泳いでいて、ちょっとしたサイトフィッシングが楽しめるのだが、今日はどこにもそのような光景はなかった。それでも淵の岩陰にイワナが隠れているのかとフライを入れるとバシャっと水飛沫が上がった。アワセを入れるとバンブーロッドがギュンとしなる。型は悪くなさそうだ。淵の中を走るイワナをなだめるように寄せてくる。強いオレンジ色が眩しく感じる。キャッチしたのは8寸くらいのヤマトイワナだった。この沢の魅力はなんといっても完全なヤマトイワナの固体に出会える事。この1尾との出会いで今までの苦労も少し報われたように思える。

更に沢を登って行くと、沢はいっそう荒れたものになる。倒木や角の尖った岩などがゴロゴロとあり、この谷がいかに荒れているかを表しているようだった。魚影はあまり濃くはなく淵の岩陰などを叩くと稀にイワナが出てくるといった感じだった。型は7寸前後ととても良型とは呼べないがどれも純血のヤマトイワナであることに間違いはない。この沢の次の世代を担う固体である。速やかに水に戻した。少し険しい箇所を越えると穏やかな流れの区間がある。しかし、何か雰囲気が違っていた。もっと木々に覆われていたような…。

現在 2年前

ちょうど2年前の同じ場所の写真があったので比較してみると川沿いの木々がほとんど流されているようだ。左斜面は土砂崩れを起こしている。相当な大水が出たことを示している。

川通しでは登れない箇所に着た。最初の高巻きである。先人達が歩いた跡を探し林の中に入る。少し巻き過ぎたので、少し川を戻ってから釣り再開。今までもヒラキには出ていなかったので、あまり期待せずにフライを流すとヒラキの終わりでモコっとイワナが飛び出した。実にゆっくりとスローモーションを見るかのようで、思わずアワセすら忘れてしまった。イワナは自動的にフッキング。(^^;
オレンジ色というか私には黄金色にも思える魚体が流れの中を走る。この無機質な流れのなかに驚くほどの発色の魚体。私の釣りに求める半分以上がここに凝縮しているようだった。型は25cmといったところだが、その胴回りの太さなどこの過酷な流れを生き抜く逞しさを感じずにはいられない。そして、黄金色に輝く魚体は何物にも変え難い美しさを持つ。

しばらく釣り登り8寸弱のイワナを2尾追加した。その先に遂に例の滝が見えてきていた。この淵に立ち滝から流れ落ちる水を見ているだけで神々しさを感じて何故か恐怖心を感じる。2年前、雨の中でこの滝に出会った時は、もうここまでかという気持ちになった。強烈な恐怖心からこの先へは入れず戻る事を決断した。しかし、今日は違った。少し空から晴れ間が差しエメラルドグリーンの水を湛える淵を照らしていた。周囲を見渡す余裕もあった。すぐに高巻きをするルートを見つけることが出来た。ザックからナビを取り出し現在地を確認する。なんだ、まだまだ序の口じゃないか。この沢の奥はまだ続いている。越えてみればなんて事も無い滝だった。しかし、上から流れ込む淵を見ていると吸い込まれそうな気持ちになる。一応この淵でも釣りはしたが、反応は無かった。この滝壷にはこの沢の主か棲んでいると思いたい。しかし、まだ私は相手にもされていないのかも知れない…。

自称「封印の滝」 上からみた滝

フィジカルというよりはメンタルな障害を乗り越え、さらにこの沢の奥へと入って行く。先程の滝ほどではないが、規模の小さな滝、そして淵が続いた。一旦フライをフックキーパーに掛けて登らないと巻けない状況が続く。いい感じの淵が連続するのだが、イマイチ反応は良くない。ポツポツとイワナは釣っているものの、とても魚影の濃い沢とは思えない。こんな山奥まで入ってもこんなものなのか、疲労感からは少し悲観的な思いがめぐる。それでもこの先にはヤマトイワナの聖域があるかも知れないそんな一念で沢を詰めて行く。渓相は相変わらずで、倒木ありの石がゴロゴロの沢だった。この流れに生きて行けるのはイワナ以外に考えられない。

多少ハッチがあったのだろう。フタオだろうか少し大きめのカゲロウがパタパタと優雅に飛ぶ。いちおうフライも交換はしてみたが反応は変わらずで、忘れた頃にイワナが飛び出してくる程度で型も8寸は越えられなかった。ここのイワナにはフライパターンはあまり関係ないようだ。

時計を見ると午後4時を回っていた。下山も考えるとあと1時間といったところだろうか。良い感じの淵を上から見下ろす。ひとまず休憩だ。ザックからナビを取り出し位置確認。だいぶ登ってきていた。こんな事でしか満足感を得られないのが少し悲しい。いちおう地図にマーカーを打った。あまり期待もせず淵にエルクカディスを打ち込む。少しの間合いを置きバシャっと激しい水飛沫が上がった。不意をつかれた感じではあるがしっかりアワセは入れていた。淵の中を泳ぐ魚体を確認した。慌てて岩を降り淵の近くに寄る。淵を走るイワナとのやり取りを少し楽しんだ。型は悪くない、グングンとロッドを絞り込む。浮き上がってきて頭一つ水面に出してみる。いいイワナだ。最後の抵抗をしたのだが労せずキャッチ。9寸ちょいのヤマトイワナ。ネットの中での暴れ方が力強い。この位のヤマトに出会えると苦労もした甲斐があるというものだ。ここの沢のイワナはどの固体も丸々と肥えている。個体数が少ないため縄張りとするエリアが広いのだろうか?。あまり競ってフライを追う感じではない。

クリックすると大きな画像になります
ヤマトイワナ 9寸 (クリックすると640x480になります ↑)

休憩していると上から二人組の釣り人が…。意外な遭遇だった。まさかこんな山奥で釣り人に出会うとは。考えてみればどうりでヒラキにイワナが居ない訳だ。そして釣れた場所も彼らが高巻きなどして川通ししなかった場所だったと思える。県外からの泊まりだそうで二人で食べるには多すぎるのではと思える良型ヤマトをキープしていた。これは正直ムカついた。けして魚影の濃いとは言えないこの過酷な沢、そこに生きる純血なヤマトをどうして食おうという気になるのだろうか。また同じフライマンというのが悲しかった。

気持ち的にだいぶ萎えてしまった。この先もあまり期待は出来ないだろう。残りは沢の様子を見る程度に沢登りに徹し、気になるポイントで竿を出す程度に留めた。午後5時になった。1時間弱の沢登りでたいぶ詰める事は出来たが、渓相は相変わらずで、倒木、石ゴロという感じだった。ナビで見るところによると、まだ奥は残っている。ここまで来たという事で地図にマーカーを打った。多少の達成感はあるが、何か満たされないものがあった。この感じだと上流部も案外容易に入れそうだ(体力的なシンドさを除けば)。私が思っている以上にこの沢は人が入っているのだろうな。倒木の上に出来た跡が物語っている。封印されたかの様に思えた滝も案外容易に越えられ、県外の釣り人も入っている。そして、けして魚影が濃いとは思えないこの現実。この沢の奥に思い描いた私にとってのサンクチュアリは妄想に過ぎなかったのか…。

疲労感と失望感に包まれ帰りの足取りは重かった。暗くなる前に下山しなければと焦りもあり転倒もした。ヤマトイワナを求めれば求めるほど感じる虚しさ。ヤマト探索の大先輩I氏の「ヤマトにこだわりだすと釣りがつまらなくなる」という言葉が想い出される。
手足に打身を感じつつも沢の合流付近に戻ってきていた。人工物の残骸を見ると「戻ってきた〜」そんな風に思えてくる。ここまで来れば多少暗くなっても平気だ。(物凄い山奥なのに慣れというのは恐ろしいものだ…。)

気になる淵があったのでのぞいて見るとイワナがヒラキに出てライズしていた。時間は6時半。ベストタイム。仕舞った竿を継ぎCDCダンを結んだ。擦れアマゴにも使うフライだからこんな山奥のイワナにはこれが偽物だとは到底思えないらしく、疑う事無くバックりフライを咥えた。7寸くらいのヤマトだったがなんとも爽快だ。まだいるはず。フラッシュを焚くとイワナを驚かすのでそっとリリース。少し間合いを置きCDCダンを水面に置くとまたバシャっと出た。純粋にフライフィッシングが楽しめた瞬間だった。

日の長い時期とはいえ午後7時を回るとさすがに薄暗くなる。まだ相当な距離を下山しなければならない事を思い出した。そう、現在地は車まで戻る中間点に過ぎないのだ。すっかりそんな事を忘れライズの釣りに没頭していた。結局あのライズポイントでは3尾のイワナをキャッチ。大きいのは出なかったが妙な満足感があった。
残りの水を飲みほしザックからヘッドランプを出す。谷間の日没は予想以上に早く、林の中を歩く時はかなり暗くなていた。また、こんな標高の高い場所でも蛍が居るらしい。時折ポツポツと明かりが動く。これはマジでビビッた。そして、ヘッドランプの明かりに驚き鹿も飛び出してくる。熊さんは出てこないでね〜。完全ビビリモード。こんな時は不思議と高校時代の応援歌を熱唱してしまう。車まで戻ったのはそれから1時間以上も後の事だった。

今回訪れた沢は、ヤマトイワナの棲む沢で年に1、2度様子を見に入るのだが、年々ヤマトイワナが少なく感じるのは否めない事実だ。放流はされていないのでニッコウイワナとの混血という心配はないが、釣獲による個体数の減少はかなり危うい状況である。釣り人の心理として、こんな沢に入り無垢なイワナを釣るという醍醐味も分かるが、それは釣るという事でクローズして、生かして川に戻すという事の重要性を認識して欲しいと切に願っている。


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