2001.7.27「夏の日の奇跡」

標高
1300m、南アルプスを流れる渓。谷間を抜ける風が心地よい。

釣行データ
日時 2001年7月27日(金) 14:00〜17:00 19:00〜19:40
釣り場 南アルプス 某川
天候 晴れ 時折薄曇り
気温 未計測
水温 18℃
タックル RigthStaff 8'4" #2 + Koh-I-Noor #0 + DT2F + VARIVAS 5X-12ft
ハッチ とくになし
釣果 イワナ 6尾(32cm、23〜20cm)
フライ #16 アント / #10 ソラックスダン


連日30度以上の猛暑が続く。今年の梅雨はあまり雨も降らないまま、大陸からの高気圧が日本を覆ってしまった。当然、川の水量も著しく減り、渇水状態。南アルプスのイワナ達の事も気になってくる。快適なオフィスから抜け出し、私は、日中の昼間、車へと乗り込んだ。午後の用事を済ませた後、川に行くつもりだった。こめかみを汗が伝う。今日も暑い。

数日前からこちらに来ているという神奈川のIさんが、南アルプスの渓で39cmのイワナを釣ったというメールが来た。あの川のあそこで?、正直、驚いた。魚影は濃いがあまりでかいのは出ないというのが、私の評。Iさんの同僚のMさんもその報告を受け、金曜日にこちらに来るとの事。今日は、午後を一緒に釣りましょうという事になっていたのだ。

特に待ち合わせ時間、場所を指定しなかったので、Mさんの携帯の留守電にメッセージを残し渓へと車を進める。標高も少しずつ高くなって行くにつれ、外気温も低くなって行く。標高1300m付近で車を降りた。木陰に車を止めたこともあってか、里の暑さとは別世界。谷を抜ける風が実に心地よい。早く川に立ちたい。そんな衝動にかられてしまう。ラインをガイドに通す手もおぼつかない。ライトスタッフの2番4ピースロッドに16番のアント。夏の釣りの定番パターン。

川に降り立つと、予想外にも渇水はしていない。確かに少なくはなっているが、この時期、これだけの水量があれば十分釣りになる。偏光グラスを通し、山の木々や草の濃い緑色を感じていた。沢の水音は心地よく響いている。この恵まれた自然の中で自分はフライロッドを振る。なんと優雅な遊びなのだろうか。しばらくぶりに山岳渓流を訪れたので、こんな普通の事が妙に幸せと感じてしまう。

フライを静かに水に落とす。少し経ち小さくパシャっと波紋が立つ。釣れはしなかったが、イワナの反応を見られただけでも嬉しくなる。ヨシ次は真剣に釣るぞ。流れを読み、一番良い流れの筋にフライを落とす。十分なティペットのスラッグが入っているので、ナチュラルに流れている。バシャっと水飛沫。イワナの振動がロッドに伝わる。結構強い引きで2番ロッドをしならせるには十分な強さがある。キャッチしたのは、23cmくらいのイワナだった。ここのアベレージサイズよりは大きめかな。フライを外し水に戻す。

しばらくして、Mさんの車が林道を通過したのを見た。その先に止めてある、私の車に気が付くだろう。リールを巻き上げ、一端渓から上がる。MさんとIさんに会うのは、2年ぶりくらい。もう、何年も前からメールで釣りの話をしているので、そのブランクはあまり感じない。
彼らは、午前中、太田切川C&R区間で釣りをされたらしい。大変渇水で、キビシイかったとの事。やはり、ドライよりは沈めたニンフに分があったそうだ。その中でも、目下ノリノリのIさんは29cmイワナをキャッチされたとの事。やはり、乗っている人は違う。今日は、Iさんに付いて行こう。

午後5時を待ち合わせと決め、3人は辺りに散った。平日ということもあってか、釣り人は少なかったので、十分にポイントを選択出来た。私は、先程の続きから始める事にして、渓に降り立つ。その後のイワナの反応は乏しかった。なかなか出てこなかった。20cmくらいのイワナが3尾出ただけ。ある場所からは全く反応が無くなってしまった。この渓は、数は出るはずなのだが、全くの反応がないのは解せない。先行者ありか?。しばらくして、後ろからIさんが上がってきた。しばしIさんと立ち話。やはり、Iさんも渋いとの事。数日間、この渓を釣っていたIさんの話では、今日は特に渋すぎなようだ。待ち合わせ時間も迫ってきたので釣りを再開。Iさんは、この先の堰堤を釣りたいと言うのでそこを譲り、私は、前の流れを登っていった。しかし、全く反応がないまま、終了となった。Iさんは、堰堤下で2尾のイワナをキャッチ。

Mさんと合流。Mさんも渋かったそうだ。今日は、川全体が停滞しているのか?。MさんとIさんは今晩はこの渓でキャンプをするらしい。そのテン場を探すために下流に下った。ちょうど、Iさんが数日前に39cmイワナを釣ったポイント付近に良い場所があったので、そこをテン場に設定。イブニングにはまだ時間があるので、夕食にするという。私も夕食とビールをごちそうしていただいた。アルコールも入ってか、少し心地よくなり話も弾む。すっかり、キャンプモード。小さい魚のライズはあるが、大物は暗くなる寸前にしか出ないというIさん。Iさんの発する言葉は重い。

午後7時、うっすらと暗くなりはじめて来た。いよいよイブニングタイムの始まりだ。ベストを着込み、川へと降り立つ。本命のポイントに行く前に18cmくらいのイワナをCDCダンで釣った。そして、Iさんが大物を釣った場所へと移動。さすがにここを3人で攻めるのはキビシイので、私は、少し上流にも良い感じの淵があるので、そこで勝負してみようと上流へ移動した。たいぶ暗くなってきたので、10番のソラックスダンに切り替えて、上流の淵に立つ。プールは静まり返っていた。ポイントを横切るように倒木がある。実に邪魔な存在だった。フライを流れに漂わせる。出ない。数投目、バシャっと激しい水飛沫。ヨシ、けっこう良いサイズ。2番ロッドをギュンギュンと締め上げている。魚が下流に走ったので、ちょうど、倒木にラインが掛かってしまった。上流にポジションを切り替え、倒木の下から魚を引き出すようにプレッシャーを掛ける。イワナは浮いてきた。尺は無さそうだが結構でかい。9寸は堅いだろう。慎重に寄せてくる。ちょっと水面に出しすぎたのか、激しく身もだえるがごとくイワナが暴れた。ヤバイ。そう思った時、ふっとテンションが軽くなった。バレた〜。痛恨のバラシ。フックはしっかり付いている。暴れた時に外れてしまったらしい。落胆。釣欲は一気に失せてしまった。ラインを巻き上げて、戻ることに。惨敗だ。

I さんの釣った41cmイワナIさん、Mさんの元へ戻ると、何やらしゃがみこんでやっている様子。「何か釣れたの?」、Iさんが、ネットを持ち上げて見せてくれたのは、U字型にしなったでかい塊。なんじゃコレ?。なんと、41cmのイワナだった。太い胴回り、でかい頭、こんなのを見るのは始めてだった。10番のエルクカディスをバッコリだったそうだ。Iさんが数日前に39cmを釣ったその前にもっと強烈な引きの魚をバラしたと言っていたが、実はこれがその主だったのかも知れない。何もかもが幸運に恵まれているIさん。凄すぎるぞ〜。
3人で写真撮影。こんなイワナ滅多にお目にかかれるものではない。この川、侮れないなぁ。

既に午後7時半を回っていた。暗かった。しかし、淵では、ライズが散発的にあった。時折、明らかに大物と思われるバシャっという音も。まだ、行けるとIさんは言う。私とMさんは、最後の勝負に出た。私も先程、良型イワナをバラした10番のソラックスダンをフックキーパーから外した。かろうじて白いウィングが見える程度。ほとんど、音であわせるしかない状態。しばらく投げたが反応なし。Mさんはフライが見えないと諦めモード。私も最後は意地になってキャストしていた。目が慣れてくると月明かりでかろうじてウィングが見えた。それが、バシャっいう音とともに目の前でスッと消えた。無意識のうちにアワセを入れていた。竿が曲がる。まだ半信半疑だった。しかし、ロットティップは、水面をさしている。「釣れた〜」叫ぶ私。Mさん、Iさんも寄ってくる。

石の下に潜られているらしい。ロッドをあおってもビクとも動かない。もしかして、針を外されて、石にでも引っかかっているのか?、不安だった。しかし、時折、ブルブルと振動が伝わってくる。なんとか掛かっている様だ。どうにも動かないので、我身も淵の中へと投じての接近戦と決め込んだ。しかし、暗すぎてイワナがどの石に入り込んでいるのかわからない。Iさん、Mさんがヘッドランプで水面を照らしサポートしてくれる。私は上流側から石下に潜り込んだイワナにプレッシャーをかけ続ける。よく考えて見れば、ティペットが7Xだった。ウィンドノットも所々にあったっけ。ちゃん交換しておけば良かった。自分の無精さを悔やんだ。先程のバラシが頭を過ぎる。これは取れないかもという不安はどんどん大きくなって行く。ロッドティップは既に水面に突き刺さり巻き上げたリールには、リーダーまで巻き込む程に接近はしていた。足下の石の下にいる。私は上流からプレッシャーをかけ続ける。Mさんがライトで照らす。そして、Iさんがティペットを手繰り、石から引き出す事を試みる。さすがに長時間プレッシャーをかけ続けた事が効いたのか、イワナが浮き上がってきた。ティペットを手繰りつつ静かに静かにロッドで引き上げてゆく。あと10秒、7Xが切れずに持ってくれば良い。あとは祈るだけ。
切れるな。切れるな。切れるな.....。

32cmイワナIさんの持つネットに塊があった。祈りは通じたようだ。先程の41cmほどではないが、明らかに尺イワナだった。長い長いイワナとのやり取りは、男三人の勝ちだった。三人は異常なほど高揚していた。41cmが出た直後に尺イワナが出た現実を目にして興奮しないはずかない。メジャーを充てると32cmのイワナだった。真っ暗な中、フラッシュの光がまぶしかった。全身がぐったりと疲労感に包まれていた。しかし、なんとも心地よい疲れだろうか。今日は、何から何までIさん、Mさんにお世話になりっぱなしだった。お二人の協力なくして、このイワナはキャッチできなかったと思う。静かに淵に向かって戻って行くイワナを見送り、夢の様なイブニングは終わった。テン場に戻った時は、既に午後8時近かった。

しかし、これだけの大型イワナが、今まで釣られずに生き延びて来ていることが信じられなかった。きっと、暗くなる寸前以外は岩陰に隠れてじっと生きてきたのだろう。これがイブニングの魔力というものなのだろうか。改めてイブニングの釣りの楽しさを知った気がする。そして、自分のホームグランドにもこんな魚達が生きている事が嬉しかった、そして、誇らしかった。私は、Mさん、Iさんと再会の約束をし、この渓を去った。




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