2000.9.2「封印の滝」

魚止めの滝か?
南アルプス某沢の奥に存在する滝。
こより先にヤマトイワナの聖域があるのか?

釣行データ
日時 2000年9月2日(土) 8:00〜14:00 / 16:00〜17:30
釣り場 南アルプス 某沢 / 某川
天候 曇り → 雨 → 晴れ
気温 未計測
水温 未計測
タックル CFF RightStaff 8'4"#2(4P) + Koh-I-Noor #0 + DT2F + REVIEW 5X-9ft
ハッチ 特になし
釣果 イワナ 12尾(最大26cm)※ 完全なるヤマトイワナは9尾
フライ #16 アント・パラシュート / その他いろいろ


1ヶ月前と何ら変わらない南アルプスの沢。しかし、風だけは少し冷たく、秋を予感させる。8月はほとんど釣りが出来なかった。一つの季節を逃がしてしまったようで、少し焦りを感じていた。しかし、この沢に一人立つと、渓の雰囲気に同化してゆき、空白の時間が少しずつ埋まっていく感じがする。私は、この沢の独特の雰囲気が好きで、長い道程をわざわざ好き好んで登るのだ。

明け方から小雨が降ったり止んだりしている。湿度は高く、少し歩くと汗が出る。そこへ風が沢筋を通り抜ける。1ヶ月前ならば、心地よいと感じたこの風も少し寒気を感じた。少し体調が悪いかも知れない。鼻の奥がムズムズする。

空には雲が覆い、午前8時だというのに暗く感じた。沢筋の水も頃合い良くなり、イワナ釣りの雰囲気となってくる。そろそろこの辺りから竿を出し始めよう。4ピースロッドを継ぎティペットの先には、夏の定番、ブラックアントの16番。9月の初旬は夏のパターンを引きずる事が多い。まだまだテレストリアルの活躍する時期。

渇水気味なのでポイントは自ずと絞られる。ドリフトというよりピンポイントでポイントを狙う感じだ。小さな落ち込みの下の白泡の切れ目。着水と同時にイワナが飛び出した。20cmほどのヤマトイワナ。久しぶりの渓魚の感触をロッドを通し感じた。腹がパンパンに張っている。しっかり食って、もっと大きくなって欲しい、イワナを静かに水へ戻す。

今日はこの沢の奥を目指す事が最大の目的。いつも以上にサクサクとポイントを攻めている。この辺りは、今までの経験であまり期待は出来ない。時折、小さいイワナがフライを突つく程度だった。まあ、なにも無いよりは遥かにマシだが。

黙々と釣り登っていると、沢が二手に分かれるポイントまで来た。1ヶ月前、ここで良型のヤマトイワナをバラした苦い想い出の場所だ。あの時の失敗を思い出し、ティペットを新品に換え、結び目も細かくチェックする。岩陰からポイントを丹念に目視。少し水量が減り流れが細い。魚影とおぼしき影はない。二つの沢筋が合流するポイントへフライを落とす。前回はここで出た。しかし、無反応。
向って右手をA沢、左手をB沢とすると、B沢の方が水量は多い。B沢からの流れが落ち込む小さなスポットにフライを置いた。ちょうど石影の脇でフライが消えてた。実はよそ見をしていたわずかの時間の出来事だった。
ヤマトイワナ 26cm食った瞬間を見ていないが、水面下での揺れ動きに変化があった。間違いない!、バシっと合せを入れる。ギラっと光り、ググっと竿が絞り込まれた。奴か!?。
狭い淵でイワナが動き回る。石の下に入られないようにロッドでいなすが、向こうも必死に石の下へ潜ろうとする。手前に向って走り出し、その隙に石下に潜り込まれてしまった。前回の失敗を繰り返さぬよう。ロッドのしなりを充分に利用し、イワナへジワジワとプレッシャーをかける。よしよし、イワナが出てきた。頭の大きなヤマトイワナだ。ネットを出しイワナをランディング。どうやら、前回のとは違う個体だ。頭と胴回りは大きかったが、長さが足りない。26cmだった。しかし、ナイスファイトに感謝。静かに水に戻し白泡の中に消えて行くのを見送る。

既に小雨がパラパラと降っていたがその雨粒も大きくなり、レインウェアを羽織るまでになった。その雨もさらに一気に強まりB沢の出会いの木の下で雨宿りをする事になる。この沢に入ろうとする度に私を拒むように降り出す雨。自分としても未知の領域への探釣であるがゆえ、恐怖心も芽生えてくる。しばらく、川を眺めたりしていたが、少し雨足が弱まってきたので、立ち上がりフックキーパーからフライを外した。

ヤマトイワナ 24cmここの沢のイワナは、純朴と言おうか本当にスレていない。こちらが極端な物音や動きを起こさない限り走ったりはしない。目の前の溜りにいるイワナも私との距離4mほど。動かずジッとしている。コンパクトな振り幅でのショートレンジのキャストでイワナの頭から少し上にフライを落とす。イワナがゆっくりと動き出す。早合わせは禁物だ。イワナがフライを咥え反転しするまでは、合せてはいけない。短いようで実に長く感ずる時間である。イワナの口がフライに近づきパッと波紋が立つ。まだ耐える。そして、少しのタイムラグを置いて、軽くロッドを立てる。狭い溜りに激しい水飛沫が上がる。確実にフックアップした証だ。

前回ここへ来た時よりは魚影は濃くないが、見えているイワナは確実にキャッチ出来た。小雨が水面をわずかに乱す事もあり、それがプレッシャーを低くさせているのかも知れない。これをサイトフィッシングと言うのだろうか?。イワナとの1対1の駆け引きを楽しんだ。型は24cm前後で揃った。いずれも美しいオレンジの朱点を身にまとったヤマトイワナばかりである。型それほど大きくはないが、釣り人にとっては至福の喜びを感じる時ではないだろうか。

堰堤の下の小さな溜り。いつも細い流れの下に魚影がある。慎重にフライを落とす。バシャっと水飛沫が立ち、イワナがヒットする。ヒットしたイワナを良く見るとその付近に推定7〜8尾のイワナが溜まっていた。まだ、釣れるぞ。半ば強引にすーっとその場から釣れているイワナを引き離し、1段落として下でキャッチした。そんなに大きくないかと思っていたが25cmほどはありそうだ。奇麗なヤマトイワナで嬉しかったが、私の気持ちは目の前に溜まっているイワナ達に移っていた。少し時間を置き同じフライを流してみた。しかし、フッキングしなかった。だが、まだイワナ達は溜まっている。時折、よくは見えないが何かを水面まで捕食していたりする。こんなに釣り人の私が接近しようとも平然としてそれを行っているのだ。大胆というか無垢といおうか....。

ヤマトイワナ 25cm今度は、19番の小さなパラシュートで、ティペットも細く9Xまで落とす。これなら出るだろう。細い流れにフライを乗せる。バシャっと激しい水飛沫が立つ。おっ、これもなかなかのサイズ。9Xだから静かに寄せる。他のイワナはと言うと何事もなかったかの如く、平然と同じ場所に定位し群れている。信じられない光景だった。9Xでヒットしたイワナも24cmくらいあった。あそこに溜まっているイワナは皆それなりにサイズがいいのかも知れない。でも、もしかすると、大きい順に釣れてくるのかな?。そんな気がしていた。

源流域での釣りを想定していたので、ミッジ類のボックスは持っていない。これ以上手元には、小さいフライはない。先程の19番を流してみたが、やはり、追っては来たものの食いつきまでは至らなかった。しかし、まだ目の前にイワナ達は群れている。悩ましくも時折、捕食行動すらしている。
小さなフライで駄目ならいっそ大きいフライではどうだろうか?。ここのイワナ達ならそれも通用するかも知れない。今まで実績のなかったクリケットポッパーの10番を手にしていた。TMC2312に巻いているので、結構でかい。これで釣れれば儲けもの。上流からポイントへ流し込む予定が、おもむろにイワナ達の頭の上に落ちてしまった。しまった!。しかし、落ちた直後、間髪入れずにイワナが飛び出した。まさにリアクションバイトに近い反応だった。同じポイントでの3匹目のイワナは、さすがに嬉しかった。これは23cmほどかな。こんなでかいフライをパックリと咥え、目をくりくりさせているヤマトイワナには愛着を感じずにはいられない。

クリケットポッパーに飛びついた時も他のイワナ達は、まだ平然と溜まって泳いでいた。でも、さすがに咥え方も早くなり、水飛沫も激しくなってきている。それなりにスレて来たかもしれない。実際、クリケットポッパー等の大型フライは通じなくなっていた。そうなると、いっそ沈めてみるか?。
ウェットボックスは持っていなかったが、なぜが、ドライのボックスにアレキサンドラが怪しげな光沢を光らせ眠っていた。これに生命力を吹き込むが如く、唾をつけ沈みやすくした。唾で濡らしたアレキサンドラは、なおいっそう生命感を帯びているように見えた。これなら釣れそうだ。ウェットには自信がないが、なんとなくそう思った。沈める事も考慮し少し上流にキャストし沈めてゆく。ゴールドティンセルが水面下20cmあたりで光った。イワナの溜まる辺りでロッドをゆっくり立ててみた。ゴンと急に重くなった。水面下が騒がしい。ヒットだ!。私は有頂天になりラインを手繰った。手前まで来たその時、ふっとテンションが軽くなりバレてしまった。う〜っ残念。ちょっとアワセが早すぎたのかな?。ウェットの経験不足ゆえ、なにが原因かは分からない。バレたとはいえ、作戦的には、ほぼ成功した訳で、少し満足もしていた。

既に最終兵器を投じてしまったようで、それ以降、なにをやってもイワナ達は、底にへばり付いたまま動こうとはしなかった。気がつけばフライパッチには無数のフライが付いている。そして、時間は1時間以上を経過し、このポイントに相当トラップされていた事が伺える。そろそろ、潮時か...。数尾のイワナを残し、堰堤を巻く事にした。

ちょうど正午頃だった。雨はどしゃ降りに近い状態になっていた。堰堤上に小さな小屋がある。その軒下で雨宿りと昼食を摂る事にした。今日は、これからが本番になるというのに、この雨には流石に気分が滅入ってしまう。夏休み中、鉄砲水での水難事故もあったので、これより先の探釣は慎重にならざるを得ない。幸いしてか、どしゃ降りは止み、小雨程度になっていた。これなら行けるか。小屋を立ち川伝いに遡行する。この辺りは木が被っており、キャスティングは困難を極める。必要以上にフライをロストするので、この辺りはパスし、すこし開けた流れまで移動した。前回この辺りまで調査したのだが、あらためて見てもなかなかの良い流れ。これならば、イワナはいる。大物狙いで10番のエルクヘアカディス、ティペットは5Xとする。大場所では出なかったが瀬の中のスポットで22cmほどのヤマトイワナが飛び出す。

気持ちは更なる先にあった。落差のある流れを乗り越えて行くと目の前に石が重なり合うようになったかなり高い落ち込みの連続。倒木もあり足場が悪そうで、そのまま流れと一緒に登るのは無理そうだ。何処か巻く道はないか?。左手をみるとなんとなく、人が通っている痕を見つける。4ピースロッドをたたみ、この痕に伝って高巻きをすると、目の前にまたしてもいい流れが見えた。ここもいそうだ。初めて見る流れにドキドキしながらも、フライを丁寧に流して行く。ここは釣れそうだと思えるポイントを幾度となく通過してきた。1時間以上にも及び何もイワナの反応が無いとなると、さすがに気持ちも萎えてくる。
その時、目の雨に魚止めの滝のような雰囲気の淵に出くわす事となる。気合で越えるか?。しかし、自分の技量ではこれ以上先は、危険であると判断。滝下の淵を攻めてこの沢の探釣を終える事とした。この淵は怪しくエメラルドグリーンに輝き、大イワナの妄想を抱かずにはいられない。そんな不思議な感じのする淵だった。しかし、手持ちのフライでは、なんら反応を得るまでには至らなかった。

ここから先に未練はないというと嘘になる。まだ見ぬ流れにヤマトイワナの聖域があるのではないか?。そんな想いも頭をよぎるが、目の前の滝を越える術を持たぬ私にとって、それは、開けてはならない封印のように感じてならない。目を閉じると沢音が遠のいてゆく様にに感じられた。それは、恐ろしいほどに無音に近くなり、その静けさに恐怖すら感じた。

午後2時、この滝を後にし下山を開始する。すると先ほどまでぐずっていた天候が嘘のように晴れ上がり、セミも泣き出し、虫達も活発に飛び始めた。一気に晩夏の渓に戻ったようだった。普段、迷信めいた物を信じるタイプでもないが、さすがにこの天候の一変ぶりには、なんとも言えぬ因縁めいたものを感じずにはいられなかった。これより先に入るなという事なのか?。実に言い訳っぽい感じもするが、その場にいた私は、「自然には逆らえない」そんな謙虚な気持ちでいっぱいであった。

1時間半をかけ沢を下り本流筋の出会いに戻る。この辺り、地図上では凄い山奥なのだが、私の感覚からすると凄く人間臭く感じられ、山の中から里に降りた時の感じに似ている。本流筋は、既に複数人の足跡が確認できた。
時計を見ると午後3時半。晴れているのにもかかわらず、谷を抜ける風が妙に冷たく感じられ、背筋がゾクゾクした。途端にクシャミが止まらなくなり、雨も降っていないがレインウェアを防寒に着込む事になる。先程までの雨ですっかり風邪を引いてしまったようだ。今晩はキャンプの予定。もう戻ってタープの下でゆっくりビールでも飲み休みたい。それほどまでに支流の沢の釣りはハードであった。しかし、沢での釣果が9尾だったので、せめて切りのいい10尾にしたいなぁと良からぬ釣欲が出てきて、少し先のポイントまで移動し入渓してみた。

先行者の足跡がくっきりと残り、あまり気持ちのいいものではない。しかし、予想に反し、入渓早々に20cmほどのイワナがヒットした。調子に乗ってさらにどんどん奥へと釣り登った。しかし、魚の反応は実に乏しかった。小さいのは時折フライを突つくが、少しましなサイズは出ても乗らない。数時間前までいたあの沢のイワナ達とはえらい違いだ。夕方の5時半を回った頃、やっと活性が上がったのか、20cmくらいのを2尾釣ってちょうど渓から上がれるポイントに到着。まだ明るいが釣りを終了する事にした。体調もあまり良くないのもあるが、前回同様にヤマトイワナとニッコウイワナの混血ばかりが釣れる事が何よりもその理由かも知れない。

仕事の都合などで全員がキャンプ地に集まったのは、夜遅くなってからである。谷間から見る星がやけにくっきりと見える。高気圧に覆われた放射冷却現象で、その夜は滅茶苦茶に冷え込んだ。フリースにウィンドブレイカーですら寒さを感じた。しかし、久々に集まる面々に体調の悪いのも忘れ、ビールを飲んで語り合い夜がふけていった。
翌朝は事情により私は早々に渓を後にせねばならなかったが、こうして仲間とキャンプするのは実にいいものだ。

南アルプスのあの沢の探釣は、今回で終わりにしようと思う。あの滝(封印)を越える事は、危険を冒してまでも必要な事なのだろうか?。そう思えたからだ。
今思う事は、あの沢の無垢なイワナ達が、無事9月を乗り越え、繁殖し、さらなるヤマトイワナの子孫として、あの沢に残してもらいたい。そんな一念のみである。


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(c) bluedun 1999-2004


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