2000.8.5「岩魚の聖域を求めて」


今まで険しい沢だとばかり思っていた、南アルプス某沢の流れ。
実際に訪れみると、この素晴らしい渓相に天然のヤマトイワナが棲む事を知る。

釣行データ
日時 2000年8月5日(土) 7:00〜13:00 / 15:00〜17:00
釣り場 南アルプス 某沢 / 某川
天候 晴れ → 11半頃から小雨、そして断続的に雨が降り続く。
気温 未計測
水温 14℃
タックル Wada Bamboo 7'0 #3 + Tueffone + DT3F Bamboo Line + AKRON 5X-10ft
ハッチ 特になし
釣果 イワナ 17尾(最大27cm)※ 完全なるヤマトイワナは10尾
フライ #16 アント・パラシュート / #13 エルクヘアカディス


山の影から夏の日差しが照りつける。朝だというのに妙に蒸し暑く感じた。前夜集中的に降った雨の影響であろう。水蒸気がユラユラと立ち昇りその影が、朝の日差しにさらされ幻想的な雰囲気をかもし出している。ここは、南アルプスのある沢。先週も訪れた小渓である。枯れかかっていた細い流れが、前夜の雨で心地よい沢音を発する程に流れは戻っていた。これは、ここのヤマトイワナにとっても夏の合間の恵みの雨となったであろうか。そんな想いもあり、この沢に再び訪れたのだ。

前夜の雨が相当強かったのであろう、所々にその影響の痕を残し、流れにも薄い濁りを感じた。水が戻った事もあり、狙うべきポイントはかなり増え、釣り登るペースもゆっくりだった。今日は、1日釣りが出来るので、そんなに焦る事はない。この沢には私しかいないのだから。

前夜の一雨でたいぶ水が戻った
沢筋の出会いから、もうかれこれ1時間半ほど釣り登っている。しかし、流れの中、何処からでもイワナが飛び出しそうなのだが、魚の反応は全くなかった。試しに水温を計ってみると14度。申し分ない。時計を見ると、もう8時半になっていた。
今日もバンブーロッドを手にしている。このロッドの素性の良さであろうか。イワナの出そうな流れをピンポイントでドリフトが決まる。こんな釣りにこのバンブーは実に良い道具となってくれる。

流れと流れの間のスポット、イワナの好みそうな流れだ。そこへピンポイントでフライを打ちこむ。ポコっとフライが消えた。22cmくらいのヤマトイワナだった。取りあえず1尾釣ると一安心。ここから、イワナが出る可能性が強いので、気を引き締め釣り登る。その後の20cm程のを追加した。先週、全く魚影を感じなかった区間だけに、思ったより魚が動いているのを感じた。ヤマトイワナは逞しくこの過酷な環境を生き抜いているようだ。

沢が二股に分かれるポイントに着た。もう11時を回り、真上から刺す日差しが首筋や腕の露出部分をジリジリ焼いている。二本の沢筋の出会いのポイント、1級の流れにフライを置く。流れに堆積した小木だと思ったそれが動いた。そして、すーっと寄りフライを吸い込んだ。早アワセは禁物。潜りかけたのを見はからってアワセを入れた。激しい水飛沫、そして絞り込まれるロッド。かなりのサイズである事は間違い無く、小さな淵を縦横無尽に走っていた。尺あるかどうか分らないがとにかく強い。石の下に潜りこまれないように必死で抑えていたのだが、足場を移動する際に手繰っていたラインを緩めてしまった。その隙に石の下に潜りこまれた。ロッドで引きずりだそうにも動かない。時折ゴンゴンと振動が伝わり、魚が掛かったままである事が、わかった。引き出そうにもどうにも動かず、拉致があかない。淵に立ち込み、強引にティペットを手繰って引きずり出そうとした。石の奥は少し広くなっているようだ。イワナにとっては格好の隠れ家。イワナの動きが細い糸を通し伝わってくる。その時、プツっとイワナとのコンタクトが途絶えた。持久戦を嫌い、強引に引き出そうとしたのが失敗だった。しばらく呆然。動けなかった...。

良型を取れなかった動揺は、しばらく尾を引きずった。精神的な焦り、そして、暑さによる疲労感、全てが負の方向に向かっていた。落差のあるA沢へ登ってみたが、魚影すら感じなかった。ここは、気分転換。B沢の出会いの木陰で昼食を取った。石に腰を置き、水で喉の乾きを癒し、握り飯をほおばる。のんびりやろうよ!。B沢の流れがそんな風に私に語っているようだった。

気分もリフレッシュ。B沢へ入る。今日は、このB沢をもう少し探索してみようという狙いもあった。木に覆われたB沢は妙に涼しく感じられた。ふと見上げると、あれほど強い太陽が照っていたのに一気に雲が覆い、太陽をさえぎっている。南アルプスの山頂付近には黒雲が覆っている。時計の気圧計も一気に下がっている事を示す。一雨来るぞ。土砂降りにならない事を祈りつつB沢を釣る。

B沢のヤマトイワナは、今日も私に寛容だった。ここはと思えるポイントでは22cm前後が疑いも無くフライを口にした。この短い区間の魚影は濃い。ここのヤマトイワナは、おっとりはしているが、ヒットした後はとにかく凄い。狭い沢筋を走り飛びまわる。これが、野生で育ったパワーと言うものだろうか。

ヤマトイワナ27cm石の影にフライを置いた時、激しい水飛沫が立った。その後、これが今までのとは違う引きであった事が、バンブーロッドの曲がりで分る。グングンと竿を持って行く。石ゴツの沢筋、どうみてもイワナに有利だ。今回は、焦らず、じっくりと期を見て勝負に持ち込む構えとした。しかし、持久戦に持ち込むまでも無く、勝負がついた。自ら岸際に寄っていたから、ひょいと岸にずりあげ、ネットに入れた。あまり、格好いいキャッチではないけども、ちょっと必死だったのだ。ネットに横たわるのは、27cmのヤマトイワナ。美しい魚体にしばし感動。この1尾が心のモヤモヤを晴らしてくれた気がする。

ヤマトイワナ26cmその先の小さな淵でも良型が出た。ちょっとアワセが甘かったのであろう。30秒ほどのやりとりの後、フッとロッドから重みが抜けてしまった。結構な良型だったと思う。バラしたけども、先程のような落胆はない。まだいける、そんな気分であった。それが現実のものとなったのは、その先の淵。岩陰から魚影が動いた。今度はしっかり食ったのを見てアワセを入れた。右へ左へ激しく走る。ロッドティップはちゃんと追従できている。これは、取れる。キャッチしたのは、26cmのヤマトイワナ。この1尾を釣って確信した。沢が荒れると、どうやらB沢へイワナ達は、退避するのではないだろうか。このB沢では6尾キャッチした事になる。短い区間にこれだけ釣れれば、なかなかである。

いかにも源流という流れ
今日は、堰堤を巻き更に奥を詰める決心である。雲行きが怪しい。今すぐ直ぐにでも降りだしそうだ。朝の天気が良かった事もあり、沢筋の出会いにザックを置きその中にレインウェアを入れたままだった。どうなるか分らないが行けるところまで行って見よう。堰堤を巻き、B沢へ本格的に入った。いかにも源流といえる渓相にドキッとする。イワナの棲む渓という印象を強く受けた。試しにと木の覆われ、複雑に落ち込んでいる直ぐ下にフライを置いてみた。間髪入れずに水飛沫が立つ。22cmくらいか、オレンジ色が強烈に濃いヤマトイワナ。いよいよ聖域に足を踏み入れてしまったのか?なんともいえぬ渓の雰囲気とそして、その番人とも言える野性味あふれるヤマトイワナとの出会いが私に一層の緊張感を与える。

B沢のヤマトイワナ
先程からパラパラと雨が降り出していたのだが、少しずつその雨の粒が大きくなって行く。そして、さらに登って行くと想像もしえなかった穏やかなイワナを育む事の出来る素晴らしい流れに遭遇する。地図を見た限りでは険しいイメージしか抱く事が出来なかったこの沢に実際はこんな素晴らしい流れも存在するのだ。ただ、険しく荒れてイワナが居なかったA沢とは全く違う。この渓相を見て、ここの沢のイワナの源はここにあり、という実感すら感じた。この流れの中でもヤマトイワナが飛び出す。やはり22cmくらいのサイズであるが、その魚体は、まさにネイティブと言える美しさを持つ。この沢の魅力にすっかり虜にされてしまった私に、なんとも雨が無情にも激しく叩きつけ出した。レインウェアの無い状態でこのまま進む事は賢い選択ではない。無念であるが断念せざるをえなかった。

下山途中も雨は断続的に強まったり弱まったりしている。既に上半身はびしょりと濡れているが、興奮していたのか、寒さすら感じなかった。今まで釣り歩いてきた長い工程を沢伝いに戻っていると、少しずつ現実に引き戻されて行くようだ。先程までの釣りで感じた、なんとも言えぬ感覚が夢であったかのように感じる。ただ、自分の心の中には、B沢を更に詰める事が自分のフライフィッシングに求めている何かを見出せるのではないかと言う確信めいたものを感じていた。

沢と本筋の合流に戻った。既にびっしょりであるが、一応、レインウェアを羽織った。この1枚がれば、もっと奥に進む勇気が出てきたのにと少し悔しく思う。時間は午後2時頃であった。体はかなり疲れている、もう帰ろうかとも思ったが、せっかくこの南アルプスの奥でイブニングまで出来る機会に恵まれたので、やはり最期まで釣ってみよう。いつも夏のイブニングにはドラマが起きている。自分を鼓舞させ、本筋をしばらく登ってみた。かなり上ると、途端に川の色が真茶色になる。この雨の影響なのか?、どうみてもこれより先は無理そうだ、早々引き返し、先程の沢との合流に立ち戻った。雨は強くもないが絶えず降っていた。この辺りの水は至ってクリアである。釣りは出来る。竿を出す決心がついた。

時間は午後3時を少し回っていた。先行者の足跡を確認はしていたが、この雨なのでプレッシャーも低くなり、イワナは出るであろう。気持ち長めのリーダーティペットにして、ドリフト重視に切りかえる。こうなると普段使っているグラファイトロッドが欲しくなる。ニッコウとヤマトの混血
イワナは飽きない程度に反応した。でも、やはり、先行者の影響か1級の筋では出ず、変な所で多く出る。ここでは、完全なるヤマトイワナは釣れなかった。ニッコウイワナとの混血が色濃くでている個体、放流物のニッコウイワナなど、B沢で釣ったあの強烈なオレンジがなんとも眩しく思えてしまう。2時間ほどで7尾のイワナを釣った。しかし、型も特筆するほどでもなく23cmくらいが最大といった感じで、今の自分を満たすものがここには無かった。(ちょっと贅沢な感じがするが)
雷が頻繁になり雨も強まった。そろそろ上がり時かも知れない。本当のイブニングはこれからであるが、もう雨の釣りに限界を感じていた。そして、濁りが少しずつ強まってきたのもある。ガレの足場を登り林道に出た。

今日の釣りは、B沢の一旦を垣間見た事は大きな収穫であった。でも、あそこがヤマトイワナの聖域であるとは、まだ決め付ける事は出来ない。でも、あの流れならば、きっといる。先週、この沢を釣っていて感じた、ヤマトイワナ減少の危機もあのB沢のイワナと流れを見た時、少しながら安堵感を感じた。でも、本筋ではもう、ヤマトイワナがなかなか釣れてこないという現実も、私に痛くのしかかっている。



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